池澤夏樹『きみのためのバラ』

読了。初読の作家さん。福永武彦のご子息だということしか知りませんでした。 世界の広がりを平らかに感じられる短編集。深読みが不要な理知的で整った文章。 表題作は、若き日に見た世界の奥深さと輝きを年齢と時代を重ねて振り返る、光の一滴のような一作。美しい。

『ヘルシンキ』のしんしんと内側から蝕まれるような孤独。 「国際結婚は大変ですよ」「どんな結婚も大変です」「だけど国際結婚は特別に大変です」この云い返したくなる気持ち、分かる。どんな結婚も大変なのは分かるけれども、自分の中の「祖国」が自由に振舞えず、沈黙を強いられる。

「サンクトペテルブルクの空気が要るの」

皆川博子さんの「U」でも感じた、祖国と文化は魂に刻まれるということ。 女優・岸恵子に元夫イヴ・シャンピ氏が云った「君の中の日本に勝てない」という別れの言葉。 ただそこに生まれついたという偶然から何故人はここまで逃れられないのか?

(11/11/2020 過去のツイートから転載)

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