The Remains of the Day by Kazuo Ishiguro

カズオ・イシグロ『 日の名残り』読了。

職務と雇主への滅私的なまでの献身を回顧する執事の独白。 意を異にしながら雇主の意思に従った、あるいは職務を優先すべきとして想いを寄せる女性を蔑ろにした、それらの行動の説明が事実なのか後付けの自己正当化なのか曖昧なのは恐らく意図的。

スティーヴンスにとっては職務は崇高な哲学の実行であるが、そこには思考と判断を他者に委ねるという賭博に近い危険が伴われる。(これは村人との会話の中で間接民主主義の限界にまで疑問を広げていく)

人生の選択(もしくは不選択)に必ずつきまとう「違っていたかも知れない人生」に思いを馳せる瞬間、悔恨とともに行き着く「それでもそうあるしかなかった」「今手にある物を受け入れる」という受容のほろ苦さは確かに黄昏の名残り惜しさに似ている。

バス停の別れの場面は圧巻。 ミス・ケントンが「例えばあなたと過ごしていたかも知れない人生」と両者の思慕をするりと自明の事実として語る、その流れるような自然さに人生を一日一日生き抜いてきたひとの自問に費やした時間と流したであろう涙を思わずにいられない。

読ませる作品。Never Let Me Goもそうですが、貴族のお屋敷や寄宿学校などアクセスの限定されたinstitutionsというものは奇妙な魅力を持つものです。 “I can assure you, he was a perfect gentleman.”という科白(確か)は映画オリジナルだったんですね。

(11/11/2020 過去のツイートから転載)

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