山尾悠子『ラピスラズリ』 

 紙の本が欲しかったのだけれど、読んでないの世界で私だけでは?という気になり(TwitterのTLがそんな感じ)電書購入。 文章を読んでいるはずなのに脳内に映像が圧倒的な力で雪崩れ込んでくる。

 続きもののように思われる絵画が掛けられた薄暗い回廊を、からだのない白い手先に手首を引かれてぐるぐると歩き続ける…それも目隠しをされているのに一枚一枚の絵画が、階段向こうの大きな窓が、古びた黄金色の繻子紐が見える。

 導かれながら階段を上ると、四方からひそひそと頼りなげな声が聞こえてくる。どれも自らの命に自信の持てぬ、生きるだけの価値を持つものなのかを問う細い声。

 けれども階を上がるたびに空気は暖かくなり、光が頬に感じられるようになり、小鳥の囀りが聞こえてくる。昇り詰めた先には吹き抜けが天空に向かって開いていて、青い聖衣の聖母の祝福が降り注ぎ、あまねく獣たちの守護聖人の手にそっと頭を触れられる。

 一度読んだだけでは理解できないし、おそらく何度読んでも完全に理解などできはしないのだろうけれど、ただただ芸術とはこういったものを指すのだろうと畏怖に似た気持ちを持つ。

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